残存価額という言葉をご存知ですか?残存価額は、法定耐用年数経過後に残る固定資産の価値のことです。税制の改正によって残存価額は廃止され残存簿価が誕生しました。
この記事では、残存価額や残存簿価の詳しい内容に加えて、定額法・定率法を用いた減価償却の計算方法も紹介します。
目次
残存価額とは、固定資産の耐用年数経過後に残る資産価値のこと税制改正によって、残存価額が廃止され残存簿価が誕生残存価額・残存簿価の計算方法平成19年3月31日以前に取得した資産平成19年4月1日以後に取得した資産残存価額とは、固定資産の耐用年数経過後に残る資産価値のこと残存価額とは、固定資産の減価償却に関連した概念の一つで、法定耐用年数が過ぎたあとに残る資産価値のことです。
減価償却の対象となる資産には、有形減価償却資産と無形減価償却資産があり、その分類によって残存価額が定められています。
分類される例法定残存価額有形減価償却資産店舗、建物、機械、事業用車両、工具など坑道や書画・骨董品は含まれない取得価額の10%無形減価償却資産鉱業権、漁業権、特許権、ソフトウェア、坑道など0%店舗や建築物などは、法定耐用年数が経過した後でも、他の企業に譲渡したりすることがあります。また、車や機械などは法定耐用年数を超えたものでも中古品として販売したりすることで利益を得られる場合があります。そのために、2007年までは一律で耐用年数が過ぎた資産でも10%の価値が残ると定めてられていました。
税制改正によって、残存価額が廃止され残存簿価が誕生平成19年度の税制改正によって残存価額は廃止され、代わりに残存簿価という概念が誕生しました。これまで、有形減価償却資産は取得価額の10%が残存価額として残ると定めめられていました。しかし、税制改正によって、耐用年数が到来した後の有形減価償却資産には、実質的な価値がなくなり、残存簿価(備忘価額)として1円だけ残すことになりました。
ほとんどの先進国では100%減価償却を認めていましたが、日本だけ90%の減価償却を認めているという状況でした。この制度の違いが企業の設備投資の足かせになっており、企業の国際競争力を低下させる要因だという意見が上がっていました。こうした意見を鑑みて、平成19年度の税制改正によって、大幅な減価償却制度の見直しが行なわれたのです。
残存価額・残存簿価の計算方法残存価額および残存簿価の計算方法は、減価償却を行なう資産の取得年月日によって計算方法が変わります。また、減価償却の計算方法には定額法と定率法の2種類があります。定額法は毎年一定の額を減価償却するのに対し、定率法は毎年一定の率で減価償却を行ないます。
平成19年3月31日以前に取得した資産平成19年3月31日以前に取得した有形減価償却資産に関しては、残存価額を超えて取得価額の95%(償却可能限度額)まで減価償却を行なうことが可能で、その後に5年の均等償却で残存簿価1円までの減価償却が認められています。
定額法では法定耐用年数に応じた償却率が定められており、毎年の減価償却額は下の式で求まります。
定額法での減価償却額の計算式減価償却額 = 取得価額 × 償却率
また、定率法においても法定耐用年数に応じた償却率が定められており、毎年の減価償却額は下の式で求めることができます。
定率法での減価償却額の計算式減価償却額 = (取得価額 – 前年度までの累計償却額) × 償却率
また、ある年度における定率法での減価償却額が、期首帳簿価額から取得価額の5%を引いた額よりも大きくなった場合、取得価額の5%分の額が残るように減価償却額を調整します。取得価額100万円、法定耐用年数5年の資産の減価償却を行なった場合、下の表に示すように計算されます。
旧定額法旧定率法償却率0.2000.369年数旧定額法での償却額旧定率法での償却額1年目1,000,000 × 0.9 × 0.2 = 180,000円累計償却額:180,000円1,000,000 × 0.369 = 369,000円累計償却額:369,000円2〜5年目1,000,000 × 0.9 × 0.2 = 180,000円5年目終了時累計償却額:900,000円(1,000,000 – 前年度までの累計償却額) × 0.3695年目終了時累計償却額:899,967円6年目1,000,000 × (1 – 0.95) = 50,000円償却可能限度額までの減価償却累計償却額:950,000円(1,000,000 – 前年度までの累計償却額) × 0.369累計償却額:936,880円7年目(50,000 – 1)× 0.2 = 10,000円(端数切り上げ)累計償却額:960,000円63,120 – 50,000 = 13,120円その年度での減価償却額 >期首帳簿価額 – 取得価額 × 0.05累計償却額:950,000円8〜10年目(50,000 – 1)× 0.2 = 10,000円(端数切り上げ)10年目終了時累計償却額:990,000円(50,000 – 1)× 0.2 = 10,000円(端数切り上げ)10年目終了時累計償却額:980,000円11年目10,000 – 1 = 9,999円累計償却額:999,999円(50,000 – 1)× 0.2 = 10,000円(端数切り上げ)累計償却額:990,000円12年目0円10,000 – 1 = 9,999円累計償却額:999,999円平成19年4月1日以後に取得した資産平成19年4月1日以後に取得した資産における減価償却は、残存簿価1円を残して減価償却を行ないます。取得価額100万円、法定耐用年数5年の資産を定額法で減価償却を行なう場合、下の表に示すように毎年20万円ずつ減価償却し、最後の年度は残存簿価1円を残すように減価償却します。
年数定額法での償却額1~4年目1,000,000 × 0.2 = 200,000円5年目200,000 – 1 = 199,999円また、定率法では、新たに償却保証額が導入されました。償却保証額は、取得価額に保証率をかけることで求まります。ある年度における定率法での減価償却額が、償却保証額を下回った場合に、改定償却率を使用して減価償却を行ないます。
減価償却額が償却保証額よりも大きい減価償却額 =(取得価額 – 前年までの累計償却額)× 償却率減価償却額が償却保証額よりも小さい減価償却額 = その年度における未償却残高 × 改定償却率取得年月日が平成24年4月1日、取得価額100万円、法定耐用年数5年の資産を定率法で減価償却する場合、償却率や改定償却率は下の表の値となります。
定率法保証率0.108償却保証額1,000,000 × 0.108 = 108,000円償却率0.400改定償却率0.500そして、定率法で実際に減価償却を行なった場合の計算が次のようになります。
年度定率法での償却額1年目1,000,000 × 0.400 = 400,000円2,3年目(1,000,000 – 前年度までの累計償却額) × 0.4003年目終了時累計償却額:784,000円4年目 (1,000,000 – 前年度までの累計償却額)× 0.400 = 86,400円償却保証額よりも小さいため、改定取得価額 × 改定償却率で償却額を計算する改定取得価額 = 1,000,000 – 前年度までの累計償却額216,000円(改定取得価額) × 0.500 = 108,000円累計償却額:892,000円5年目107,999円改定取得価額 × 0.500 = 108,000円 > 期首帳簿価額(108,000円) – 1円累計償却額:999,999円※改定取得価額:調整前償却額が償却保証額を初めて下回った年の期首未償却残高のこと。
まとめいかがでしたか?残存価額は、法定耐用年数が経過した後に残る固定資産の価値を表していました。税制改正によって残存価額は廃止されて残存簿価が誕生し、それに伴い減価償却の計算方法も大きく変わりました。この記事を参考に、それぞれの内容や、減価償却の計算方法もあわせて押さえましょう。